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「ガラスの工場」でつくられるモビリティの未来

Text: Sonja Bördner  |  Photos: Knothfoto, Oliver Killig  |  August 2017
ドレスデンの「ガラスの工場」(GläserneManufaktur)は、フォルクスワーゲンのe-モビリティの新しい拠点です。ザクセン州の首都ドレスデンと共に、未来のモビリティの架け橋となっています。

まるでガラスの宮殿のような建物は、緑豊かな地に建てられています。ひと目では自動車工場には見えません。
ここは人々に開放されていて、ドレスデンの公園から自由に散歩することができます。最近は近隣の住人が電気自動車の充電に立ち寄ります。ここの充電ステーションは、最低でも1年間は無料なのだとか。
「ガラスの工場」は、フォルクスワーゲンのクリーンモビリティの中心地です。
ここでは、研究開発や都市計画分野の専門家と協力してスマートなモビリティの研究・開発を行っています。現在、このドレスデンの工場では電気自動車のみ生産しています。
2017年4月には、最初のe-Golfがこの工場で生産開始されました。毎日35台のペースで製造されています。5月には、ザクセン州で最大かつ最も強力な充電ステーションが開設されました。太陽光発電の電気を使い、一度に4台の電気自動車を充電することができます。急速充電で45分ほどかかりますが、その間公園を散策する楽しみもあります。

「ガラスの工場」の外にある新しい充電ステーションはクリーンな太陽光発電を使用しており、1年間は無料で利用可能です。

「ガラスの工場」から道路へ直行:Rainer Jopp(品質保証エキスパート)が最初に生産されたe-Golfに合格証を出した瞬間。

「ドレスデンでは、電気自動車の普及を積極的にサポートしたいと考えています」とフォークスワーゲン・ザクセンの経営陣のスポークスマン、Siegfried Fiebigは言います。
「充電ステーションは、大事なインフラの一つ。つまり、電気自動車の普及に最も大切な施設なのです」
ドレスデンと充電ステーションについての提携も進めています。フォルクスワーゲンとドレスデンは、地方の研究機関との緊密な協力のもと、クリーンで地球に優しく、ネットワーク化された都市交通のモデル都市を目指しています。
「ガラスの工場」では、革新的なモビリティのコンセプトが開発、テストされ、「未来のモビリティの中心」として、その役割を担う予定です。スタートアップのベンチャー企業で働く若い起業家によって新鮮なアイデアがもたらされ、魅力がいっぱいのプロジェクトとなっています。

»e-Golfがこの地ドレスデンで生産されたことを誇りに思います«

ドレスデンで行われているドイツ連邦交通省のe-モビリティ・システムに関する実証実験には、大きな期待が寄せられています。
e-モビリティを推進するために、市は2025年までに250の充電ポイントを追加し、通勤者が利用できる70以上のモビリティ・ハブの建設を予定しています。モビリティ・ハブとは中継地点のようなもので、電動自転車からカーシェアリングや地元の公共交通機関の乗り換えをする駅のような存在です。
フォルクスワーゲンは、それぞれの交通の流れをスマートにするために、ドレスデンの最先端交通管制センターから送られるデータと、UMAアプリデータをリンクしました。
フォルクスワーゲンはe-Golfによって都市のe-モビリティの推進に貢献しています。
それだけではありません。ドレスデンの経済開発局のスマートシティ部長であるUwe Richterは、「e-Golfがここで生産されていることを誇りに思います」と話しています。

フォルクスワーゲンとe-モビリティ。

フォルクスワーゲンは、80年前にBeetleを発売しました。1974年のGolfに次ぐ傑作で、モビリティを民主化しました。
私たちが経験している急進的な変化は新しいものですが、同時に大きな課題でもあります。新しいテクノロジー、デジタル化、コネクティビティ、環境保護に対する需要は、個々のモビリティを根本から変え、eモビリティが決定的な役割を果たすでしょう。

フォルクスワーゲンは1970年代初頭に、化石燃料に代わるモビリティの研究を開始しました。それが今日のフォルクスワーゲンのPHEVやEVのラインアップに繋がっているのです。300kmの航続距離を誇るe-Golfをはじめコンパクトカーのe-up!、PHEVのGolf GTE、Passat GTEなどのモデルです。
フォルクスワーゲンは、充電ステーションでの簡単な決済を実現するカードサービスから、e-カスタマーのためのレンタカーまで、様々なアフターセールスのサービス拡充に取り組んでいます。

e-モビリティはドレスデンで作られました。

正面ガラスから差し込んだ自然光はフロアを明るく照らし出し、色とりどりのGolfの車体が天井から吊られています。オーバーヘッド式コンベアの巨大なバーが、その車体を静かにターンテーブルへ乗せました。
非常に静かな自動車工場です。エアコンプレッサーの音、溶接音、金属を叩く音もしません。
「ヴォルフスブルクから送られてくる車体に、ここで命が吹き込まれます」と生産マネージャーのJens Schlenderは言います。「e-Golfには約700個の部品が使われています。ドライブトレーンやブレーキ、ドライバーアシスタンスシステムなどの品質検査をするレベル1のテストエリアでさえ、とても静かです。電気モーターはまったく音を発しないのです。」
静かでクリーンで安全な工場とは、生産従事者の仕事の工程でも同様です。
彼らは重いものを持ち上げる必要はありません。2016年までこの工場で生産されていたPhaetonは、2台のロボットがフロントウインドウとホイールの取り付けを行っていました。天井から吊り下げられた2台のロボットは最新のもので、自動で車の中にシートを固定し、ドアを取り付けます。

従業員は、ジョイスティックで機器を操作します。「これは、ボルト止めが再び手作業になったことを意味します」と、生産責任者は言います。
デジタル化は長年にわたり定着しています。優秀な従業員は、スクリーン上で組立プロセスの詳細な訓練を受けます。
Schlender氏によると、「バーチャルトレーニングプログラムはまるでゲームのような操作感覚です」「このトレーニングで合格してはじめて実作業に入るのです」

e-モビリティ、ネットワークドライブ、革新的なサービス-「ガラスの工場」が提案する未来。

フォルクスワーゲンは、パートナー企業とインテリジェント・モビリティの未来を推進しています。

クルマの新たなインテリアや、生産施設の新たなイメージ。e-モビリティの最新拠点として、ガラスの工場には見どころがたくさんあります。この工場は電気自動車に興味のある人に幅広く開放されています。
生産ラインのツアーではe-Golfがどのように作られるのかを、詳しく学ぶことができます。今後はVRヘッドセットを使うことでさらに深い理解を提供できるようになるでしょう。

»モビリティサービス市場は急速に成長しています«

リアリティを超えて:VRヘッドセットを活用したツアーが間もなく始まります。

自動車は、この物語(スマートシティ・スマートモビリティ)のほんの一部でしかありません。電気自動車とドライバー・アシスタンスシステムの提供だけでは持続可能なモビリティを牽引する世界トップレベルの企業にはなれないのです。
「クルマとドライバーがネットワーク上で繋がることで、今では考えられないような高度なサービスが受けられるようになるでしょう」とSiegfried Fiebigは語ります。
モビリティサービス市場は、新たなサービス制作に利用される大量のビックデータを活用しながら、さらに拡大していきます。例えば渋滞回避や迂回路の再設定。また、空き駐車場やすぐに使える充電ステーションへの誘導など。もちろんリアルタイムでデータ共有できることが理想です。
「フォルクスワーゲンは、先進的なソリューションを使ったスマートシティの実現に向けて重要な役割を果たしたいと考えています」とFiebigはさらに語っています。

これらの実現化に向けては、さまざまなアイデアが上がっています。
フォルクスワーゲンは都市部の交通を判断する人工知能を利用したUMAアプリを開発しました。また世界中で学生たちが革新的なソフトウェアプログラムを考案しており、若い研究者や企業家がベンチャーを立ち上げています。彼らはデジタルの動向とモビリティについて解析するソリューションやカーシェアリング、またその車両のデリバリー技術について焦点を当てて研究しています。
このデジタル時代ではローンチのスピードも重要となります。「技術は急速に進化しています。現在運用されているテクノロジーは、2年前にはアイデアさえありませんでした。」とsunhill technologiesのMark Riedlは語ります。エアランゲン市に拠点を置くこの会社はつい最近までスタートアップ企業でしたが、今ではモバイル決済サービスのリーダー的存在になっています。
例えば、TraviPayアプリは車内で簡単にさまざまな地域の駐車券が購入できます。Charge&Fuelアプリは充電ステーションでキャッシュレスの利用を可能にしました。最近になってVolkswagen Financial Servicesはこのsunhill technologiesを買収しました。

私たちは常に新しいアイデアを探しています。

「将来、クルマの運転方法は今とはガラリと変わるでしょう」と、カーシェアリング・プラットフォームを開発するCarlundCarla.deのMartin Wesnerは確信しています。「乗り物は単なる移動手段となるでしょう」
彼らは8月に「ガラスの工場」にオフィスを移すスタートアップインキュベーターの中の有望な1社です。すぐ脇でe-Golfが組み立てられている中、若い企業家たちは、シンクタンクと一緒にアルゴリズムのプログラミングやアプリをテストし、プロトタイプを開発しています。

ここはインスピレーション得るには絶好の場所。成熟したアイデアの開発に向けて、彼らには200日間の開発期間が与えられています。フォルクスワーゲンのパートナーである顧客やサプライヤーは彼らにいつでも手を指しのべられる環境にあります。
「私たちは若い創業者たちのイノベーションにワクワクしています」とガラスの工場の工場長であるLars Dittertは語ります。「このプログラムは、成功に向かっていることを確信しています」実証実験は2018年の初めに行われる予定です。「どのプロジェクトが実現するのか、今から楽しみです」
フォルクスワーゲンとドレスデンの全面協力があったからこそ、新しい会社やビジネスアイデア、そして新しいアプリケーションがこのように世に出てくるのです。

スタートアップ企業とプロジェクト

「ガラスの工場」内のスタートアップ企業はビッグデータのエキスパートであり、都市交通データの大いなる価値を見出しています。
彼らは充電ステーションの促進、カーシェアリングのより良い運用、空き駐車スペースへの誘導などの研究や、大型輸送に関する環境に配慮した方法論などを考えています。

ドレスデンのCarlundCarla.de-コーポレート・カーシェアリング

CarlundCarla.deは、商業車をレンタルするプラットフォームビジネスをはじめました。この新しいカーシェアリングのモデルには、クルマのフリート管理も含まれています。顧客によってさまざまなニーズをうまく組み合わせて運用することでクルマの稼働率を上げることができます。もちろん個人客も対象です。ドライバーが休暇中の商業車を自由に貸し出すのです。

フライブルグのジオスピン社 – 地理学的ビックデータ解析。

フライブルク大学スマートシティ・リサーチグループはユーザーデータを分析し、地理学的データとリンクさせて、人の行動パターンを解析しています。Geospin社はディープラーニングや予測分析などを利用してビジネス面での最適立地の予測を行っている企業です。ドレスデンを例にするとGeospin社はナビゲーションと行動プロファイルを利用して充電ステーションとカーシェアリングの最適な設置場所を予測する予定です。

ドルトムント市のLoyalGo社 - ローカル広告を掲載する充電ステーション。

この若い起業家は、地元の小売業者と協力して電気自動車の充電ステーションの拡大を促進するつもりです。これを実現するために、広告スクリーン付きの「LoyalGoステーション」を開発しました。これはデジタルポスター広告で資金調達した充電ステーションです。ドルトムントにすでに設立されているサービスで、スマートフォンで店舗のサービスポイントが獲得できる「LOYEES」を使い店舗紹介ができるのです。起業家は現在、「LoyalGoステーション」をドレスデンに紹介したいと考えています。

ニュルンベルグ市のスマートシティシステム - 駐車場ナビ

このスタートアップ企業は駐車場の満空情報をリアルタイムでチェックし、空いている駐車場へクルマを誘導するシステムを開発しました。ドライバーは空いている駐車場を探す必要がないため、交通渋滞を軽減する効果があります。これはフォルクスワーゲンが開発したUMAアプリを利用したサービスのひとつです。スタートアップ企業のスタッフは創業支援者でもあり、センサーシステムの最適化とドレスデン市でのセンサー設置を行っています。今後のサクソン州都の駐車施設にも広げていく予定です。

ベルリン市のTretbox - 電気駆動の3輪配達バイク

自動車デザイナーのMurat Günakが創業したTretbox社は、都市部と住宅エリアでのクリーンな宅配に焦点を当ててきました。Tretbox社は宅配業にディーゼル輸送バンの代わりとなる、交換可能なコンテナを備えたモダンな電動バイクを提供する予定です。Tretboxは「ガラスの工場」でプロトタイプの製作に取り掛かります。将来的には自動運転も視野に入れて開発に取り組んでいます。

ライプツィヒ市のEkoio-スマート運転サポートIDA

このスタートアップ企業は、クラウドテクノロジーに基づいてさまざまなデータを処理するコネクテッド技術を開発しました。自動制御運転アシスタントのIDAはスマートフォンを手にしていなくてもさまざまな操作ができるソリューションです。 IDAは走行中の安全性を高めるのに役立ちます。 Ekoioは創業者支援のもとにIDAの開発を継続する予定です。